その後、数回にわたって、俺とヒトミさんとのメールでのやり取りが続いた。
「仕事が忙しい」とのことで、ヒトミさんから俺の携帯に送られてくるメールは、最多でも一日一通。それ以上のコンタクトは無かった。
一通一通のメールの内容が濃いことを考慮すると、彼女は本当に忙しくて、メールを送る時間さえも惜しんでいるのかもしれない。
しかし俺には、彼女の行動には何か【裏】があるように思えてならなかった。
9月3日 21:00
ヒトミさんから送られてきたメールには、彼女の電話番号が記されていた。
9月4日 12:39
ヒトミさんからのメール。彼女自身が日時を指定し、俺を誘った。Xデーは、9月6日、土曜日。
9月5日 深夜未明
ヒトミさんに電話をかけた。数年ぶりに聴く彼女の声。元彼女と元彼氏の会話。「どうして連絡を取ろうと思ったの?」という俺の質問に対し、彼女は冗談まじりに「夏紀に呼ばれた気がしたの」と応えた。「呼んだよ。ちゃんと聞こえた?」と、彼女のジョークに付き合う俺。「うん。聞こえた」と彼女。特に深い話はしなかったが、互いへの興味と逢いたいという想いが募った。
9月6日 土曜日
Xデー Part.1。ヒトミさんから誘われていたが、俺は友人のバースデーパーティーに参加する予定があったため、結局はNG。
9月7日 日曜日
Xデー Part.2。ランチ・デートをする予定で、待ち合わせ場所と時間まで決定していたが、土壇場でキャンセル。
9月8日 月曜日
関西方面へ出張するはずだったヒトミさんの予定がキャンセルになり、彼女はこの日フリーだったが、俺に先約があったためNG。
9月12日 金曜日
クラブ・パーティーに誘うが、断られる。
俺は、ヒトミさんと逢うチャンスをことごとく逃していた。
さらに、12日に送られてきたメールでは、遠回しに「逢う約束はしたくない」といったニュアンスが込められている次第。
これはどういうことだ?
昔付き合っていた経験から、彼女の嗜好はある程度把握しているつもりだ。
彼女はこの一連のプロセスを楽しもうとしているだろう。
これは恋愛上級者仕様の高度な誘惑のテクニックなのだろうか?
俺の興味や期待を煽っているだけなのだろうか?
彼女の真意がまったく掴めず、俺は混乱していたが、これはいかにも彼女らしい【手口】なのだと勝手に解釈した。
しばらくは俺からの連絡は控えよう。
俺の直感は、「焦るな。様子を見たほうが良さそうだ」と訴えていた。