仮に、その女性の名前を「マリア」としよう。
ちょうど1週間前。3月13日の金曜日。
フランス人の友人「ステファン」が主催するアイスクリーム・パーティーで俺は「マリア」と知り合った。
友愛主義が信条の彼らフランス人、ステファンをはじめとする俺の友人たちは、毎週末あらゆる類いのパーティーを開催しているが、昨年末あたりから仕事や他のガールフレンドたちとの交流などの関係で時間的な余裕が無かった俺は、今回、約3ヶ月ぶりに彼らのパーティーに参加することができた。
茨城県某所にあるマンション。
ここは外国人専用の施設で、俺の友人のフランス人たちは、ほぼ全員がこのマンションに住んでいる。
今回のパーティー会場として使用されたのはそのマンションの一室。住人たちが利用できるいくつかの共用スペースのうちの一部屋で、キッチン設備──オーブン、ガスコンロ、冷蔵庫、冷凍庫など──が完備され、大きな会議などにも利用できる環境が整っていて100人程度を収容できる最も広い部屋だ。
パーティーの開始時刻は19:00時から。
仕事を終え、職場から直行した俺がパーティー会場に着いたのは21:00時。
会場となる部屋の中には、既に50人ほどの男女が集まっていた。
参加者の大半はフランス人。そこに、ドイツ、イギリス、カナダ、アメリカ、フィリピン、そしてごく一部の日本人と、あらゆる国籍の人種が集まってきている。
キッチンカウンターやテーブルの上には、参加者が各自持参してきた異国情緒漂う各国の伝統料理の数々をはじめ、梅酒入りのクレープといった変わったデザートや、サラダ、スナック類、そして飲みきれないほど大量のワインとビールが並べられている。
しかしメインとなるのはもちろん、ステファンが作ったアイスクリームだ!
彼は本当にスゴいと思う。自宅の小さなキッチンで大量のアイスクリームを手作りしちゃうから。
しかも「チョコレート」「ハニー」「抹茶」「ストロベリー」「シナモン」と、種類も豊富で味もプロ顔負けの絶品だった。
参加者のうち10数名は俺と初対面だったのだが、そのうちの1人、いちばんカッコいいフランス人の男性に声をかけた。
彼の名はフィリップ。
半年ほど前に日本に来たばかりだと言う。
日本語が不自由なため、俺との会話はフランス語と身振り手振りのジェスチャーが中心だ。年齢は俺と一緒くらいだろう。
髪型はドレッドロックスで、ジャマイカ系の雰囲気。着ているTシャツには麻薬にまつわる過激な文字がプリントされている。
ルックスはファンキーだが、職業は市内の研究所に勤める優秀な物理学者だ。人は見た目で判断しちゃいけない。
さて。
クレープを食べ、ビールを呑みながら会話をしていた俺とフィリップのちょうどすぐ側に、1人の美しい日本人の女性が立っていた。
その女性こそが冒頭で紹介した「マリア」だった。
日本語と英語を話すマリア。
英語とフランス語を話すフィリップ。
日本語とフランス語を話す俺。
共通の言語を持ち合わせていない俺たち3人だったが、それでも意外とスムーズにコミュニケーションが図れた。
俺とフィリップは、ほんのわずかの間に、マリアを俺たちの世界に引き込んだ。
いや、俺たちが彼女の世界に踏み込んで行ったのか…?
「焼き肉が好きだ」という彼女に、俺は「近々一緒に喰いに行こう」と提案した。
「え〜? ホントですか? 私、そういうの本気にしますよ」と彼女。
俺の誘いを社交辞令だと思ったのだろうか、その真意はわからないが、とにかく彼女はかなり好感触なリアクションを示した。
つづく。。。