2011年7月15日。
早朝、3時56分。

熟睡していた俺の睡眠を妨げるように、突然、携帯電話の着信音が鳴り響いた。

意識朦朧としながらも、目を覚ました俺は条件反射的に iPhone を手に取り、電話に出た。
「はい…もしもし?」
すると電話の向こうから、酔っぱらった女性の声が聞こえた。

「もしもし? 夏紀さん?」

「んあ? うん。…誰?」
寝ボケて頭が働いていなくて、相手を確認せずに電話に出たため、いま会話をしている女性が誰なのかわからなかった。

「私、エリコでーす!」

『エリコ』という名の女性は何人か知っているが、聞き覚えがない声だった。
俺は「ちょっと待って」と彼女に断り、iPhone の画面に映し出された通話相手の名前を見て、ようやくその女性が誰なのかを悟った。

彼女は、5年以上も前に、俺が勤務していた職場でアルバイトをしていた後輩の女の子だった。

「うお? エリコちゃん? 久しぶり? 元気? どうしたの、こんな時間に?」と俺。

「私、いま飲んでるんですけどぉ…!」とエリコ。
そして彼女はいきなり「今から一緒に飲みましょうよ〜!」と誘ってきた。
ちなみにこのとき、時刻は早朝4:00。
当然、そんな誘いに応じるわけがなかった。応じられるわけがなかった。

「わはは。こんな時間に?」
「私いま飲んでるんですぅ…!」
「うん。知ってる。さっきも聞いた。だいぶ酔っぱらってるみたいだね?」
「わかりますかぁ?」
「うん。テンション高すぎるよ」
「うふふふふ〜♡」

彼女は明らかに泥酔しているようだった。

「俺、いま眠いから、また後で電話してあげるよ。たぶんオマエ、この電話のこと覚えてないと思うけど」

電話の向こうからは陽気な笑い声。
そしてワケのわからない会話が聞こえてくる。

「睡眠妨害した罰として、モーニングコールを頼むよ。8時にもう一回電話して起こして。今から4時間後な。オーケー?」

「うふふ…! できるかなぁ〜?」

まったく会話が噛み合ないことを悟った俺は、電話を切り、再び浅い眠りについた。

続く。