その頃の俺は、職場での呑み会のときの暴飲暴食が原因で胃炎を患い、体調不良を訴えていた。
あまりにも症状が酷いときは、3日連続で仕事を休んだり、早退することもしばしば。それくらい猛烈な腹痛に冒されていた。
そんなあの日のデートで、チエと一緒に買い物に出掛けたときのこと。
とあるショッピングモールの中にあるスターバックスで、コーヒーを飲んで一服していた俺たち。
店から出る前に、チエが「お手洗いに行ってくる」と言ったので、「俺も行くよ」と、彼女と共にトイレに向かった。
実はこのときも、胃炎の影響でお腹の調子が悪くなりはじめていたんだ。
ハプニングが起きたのは、俺がトイレから出てきたときだった。
チエの姿が見当たらない。
俺は必然的に、トイレに籠っている時間が長引いてしまったから、彼女は間違いなく、俺よりも先に出て、待っていてくれるはずだった。
「チエもまだトイレかなぁ?」と思い、しばらくその場で彼女を待っていたが、チエは全く現れる気配がない。
すると突然、俺の携帯に着信があった。チエからだ。
電話に出ると、チエはいきなり怒りに満ちた口調で「もう帰るから!」と言い放った。
…まったくワケがわからなかった。
「なに? どうした? 何があったの? 今どこにいるの?」と彼女の居場所を聞き出した俺は、腹痛に苦しみながら彼女のもとへと急いだ。
彼女は、明らかにそれとわかる「負のオーラ」を纏っていた。
数分前のスターバックスで、あんなに楽しそうにしていた彼女が、いまや不満に満ちた表情で、不機嫌な態度を装っている。
「なに? いったいどうしたの?」と声をかける俺。
すると、チエは次のような暴言を吐いた。
「どうせトイレの中で他の女と電話してたんでしょ!」
俺は弁解した。
誰とも電話なんてしてない。トイレが長引いたのは胃炎のおかげでお腹が痛いせいだ。
確かにちょっと待たせちゃって悪いことをした。でも、それって、ほんの数分だろ?
今もまだ調子悪いし、…察してくれよ。
しかしその日、結局、チエの不機嫌な態度は収まらなかった。
つづく