その女性は、とても綺麗な人だった。

ぜったいに俺よりも年下だと思っていたのに、実際は彼女のほうが年上で、その若さと可愛らしさに惹かれ、惚れ込んだ。

キッカケは、2009年8月27日にブログ経由で送られてきた一通のメッセージ。

その後、約一週間の間に幾度かのメッセージのやり取りを経て、俺たちは出逢った。

はじめて電話で話をしたとき、彼女は俺の声を聞き、「元彼の声に似ててビックリした」と言った。
俺は、彼女の声のトーンと丁寧に話す言葉を聞き、ある種の「聡明さ」を感じていた。

待ち合わせの場所に現れた彼女。間近で見たその姿は、写真よりもはるかに美しく、俺の想像を超えていた。

2人の話題は、「ストーカー体験」、「VAK診断」、「NLP(神経言語プログラミング)の基礎」「ヨガ」、「アーユルヴェーダ」、「スタティック・ローディング」、「ナチュラル・ハイジーン」、「脳波と洗脳とマインドコントロール」、「家族と兄弟」、「最近読んだ本」、「映画」、「仕事」、「心霊体験」、「過去の恋愛」、「過去の経歴」、「心理テスト」…と多岐に及び、公園での散歩と、食事とドライブを経て、誘惑の螺旋に陥った。

数時間の間に、初対面の者同士がこれだけ密な会話をして、惹かれ合い、関係を深めることができるのは稀なことだし、そのような体験を共有できる相手は極めて貴重な存在だ。

「出逢った直後に強烈に惹かれ合ったり、カリスマ的な魅力を感じたり、一目惚れもしないような相手では、その後の発展が望めない」

彼女は、そのような基準も充分に満たしていた。

当然、俺の中には必然的な欲求が芽生えた。性欲である。

俺は、その女性を征服したくなった。

そして、彼女を抱いた。

ここまでの所要時間、わずか8時間。

短時間で相手を魅了するためには、それなりの魅力とテクニックが必要だ。
高いレベルでのコミュニケーション能力も要求される。
ある程度の運も必要だろう。

幸運にも、俺の誘惑は功を奏した。

人と人との出逢いは、大きな変化のキッカケになるエネルギーの交換作業だ。

彼女は、俺の言動に「刺激を受けている」と言った。「エネルギーをもらえる」とも。そして、「たくさん与えてくれてありがとう」と。
彼女の口からは、感謝の言葉が絶え間なく飛び出す。謙虚な姿勢に好感が持てた。

そんな彼女は、自分が得るばかりで、俺には何も与えていないと思っている。

…大きな誤解だ。

彼女が俺に対して示す、感謝の気持ち。そして「ありがとう」という言葉。

普段、何気なく使う言葉だけど、実はとてつもなく大きなエネルギーを秘めた言葉なんだと、改めて感じることができた。

俺は、彼女に話を聞いてもらえることで満たされたし、逆に、彼女の話を聞いたことで新しいインスピレーションを得ることもできた。

彼女と共にした時間の中で、俺が得ることができたこの満たされた想いに比べれば、むしろ、俺が彼女に与えることができたのは表面的で薄っぺらなものにすぎないだろう。

彼女が俺に頻繁に投げかける「ありがとう」という言葉で、俺が伝えたい気持ちがかき消されてしまう。

「ありがとう」…その言葉はむしろ、俺が彼女に伝えたいのに。