普段、俺たちがプレイするほぼすべてのゲームでは、自分が勝つことだけを考えればよい。

目指すのは【Win-Lose】(私が勝って、あなたが負ける)という状態だ。

しかし、この原則は恋愛をはじめとするすべての人間関係に当てはめることはできない。

恋愛で目指すのは【Win-Win】つまり、【私も勝って、あなたも勝つ』という状態だ。

【Win-Win】こそが、恋愛において唯一絶対の条件。恋の炎を燃やし続けるルールとなる。

仮に、【Win-Lose】(私が勝って、あなたが負ける)または【Lose-Win】(私が負けて、あなたが勝つ)のように、均衡が崩れ、【どちらかが負けている】場合、それは二人の別れが近いことを意味する。結果的に、【Lose-Lose】(どちらも負ける)ことになる。恋の炎が消えるときだ。

そう。恋愛とは、言葉を変えれば、恋の炎を燃やし続けるゲームにほかならない。

結果を求める男性に対し、女性はそれ以上にプロセスの密度を求める。
その点において、恋愛をゲームとして捉える傾向は男性よりも女性のほうが強いだろう。

では、俺とバイオレットのゲームの行方は?
俺たちの恋の炎は?

一見すると、俺たちのゲームは非常にスローペースのように思える。
出逢ってからキスするまでに、ニヶ月もの時間を要した。さらに、お互い惹かれあっているのを承知した上でなお、その先に進まなかったからだ。

俺とバイオレットがはじめてキスをした同窓会の夜、本当はもっと彼女を求めたかったが、俺たちはそれ以上先には進まなかった。

もちろん、その気になればいくらでもチャンスはあったが、それは俺たちにとって最善の選択ではなかった。
俺たちには少なくとも二ヶ月間の猶予が必要だった。その二ヶ月間、バイオレットとは一度も逢うことがなかったし、今回逢ったのは二度目で、時間にすれば数時間と経っていない。身体の関係に至らなかったことに関しても超えようがない制約があった。その現実を考慮すれば、考えうる限り最短のペースで俺たちはゲームを進行させているのかもしれない。

第三者的な視点から見れば、俺たちの関係はハイスピードでめくるめく展開だと感じることだろう。
しかし、当事者である俺たちはそのように感じてはいない。
俺たちはお互いにくすぶっていたままだった。
これは『Lose』ではないが、まだまだ『Win』にはほど遠い。
俺たちの時間はあまりにもゆっくりと進行しているため、このゲームがいつスタートしたのかもわからないほどだ。

そもそも、俺とバイオレットのゲームはいつはじまったのか?
俺たちはいつから惹かれあうようになったのか?

これは俺たちにもわからない。永遠に謎のままだろう。

しかし、俺とバイオレットは既に気付いていることがある。

今はくすぶっているこの火種はすぐに燃焼しはじめ、恋の炎に変わる。
そしてこの炎はいずれ、消せども燃える魔性の炎になるだろう。