SEXPEAS

ウィリアム・シェイクスピアは、【AS YOU LIKE IT】（お気に召すまま）の中で次のような言葉を残している。

全世界は舞台である。
すべての男女はそこで演じる俳優に過ぎない。

その日の俺とバイオレットにとっての舞台は、俺の部屋のベッドの上だった。
横になり、余韻を楽しむ俺たち。俺は裸のバイオレットを腕に抱き、バイオレットは裸の俺の胸に顔をうずめている。

彼女の体温と、肌の感触を確かめるように、俺はずっと彼女の髪と背中を愛撫し続けていた。

唐突にバイオレットが口を開く。
「誕生日のプレゼントは何が欲しい？」

俺はセックス直後の男性に特有の猛烈な睡魔に襲われはじめ、意識が朦朧とし、夢の世界へと足を踏み入れていたが、バイオレットの声で踏み止まり、頭脳をフル回転させて気の利いた言葉を探し出した。

「首にリボン巻いて俺のところに来てよ。それだけでいい」

「もう！　ホントに、何が欲しいか教えてよ」とバイオレット。

「じゃぁ、リボンだけ巻いてきて。他は何も着なくていいから」と俺が返す。

微笑むバイオレット。微笑む俺。

俺たちのゲームは順調に進行している。
そして俺は、バイオレットに本気で惚れ込んでいた。
彼女は俺の生活の一部になり、俺の精神の一部になり、俺の身体の一部になりつつあった。

彼女と逢うたびに彼女への想いが募る。
彼女と逢えない時間はさらに彼女への想いが募る。

感慨に耽っている俺の睡魔を吹き飛ばしたのは、バイオレットの次の言葉だった。

「今日、いつもと様子が違う。『最後の夜』みたい」

驚いて、一瞬にして眠気が飛び、俺の意識が覚醒する。
『最後の夜』？　どういうことだ？

いろんな思いが俺の頭をよぎった。
動揺を隠せなかった。
バイオレットとの【最後の夜】なんて、そんなことは考えたこともない。
俺は何か重大なエラーを冒したのか？
しかし、またすぐ次の言葉で俺は冷静さを取り戻した。

バイオレットは俺の瞳を見つめると「『別れよう』なんて言い出さないでね」と不安げな表情を見せた。

彼女は俺を失うことに不安を感じてくれている。
それは俺も同じ気持ちだ。
女性特有の敏感なセンサー【女の勘】で、何かを感じ取ったのかもしれないが、今回、彼女の勘はハズレた。
別れるなんて、そんなつもりはまったく無い。少なくとも、今のところは。

俺はこの関係が気に入ってる。
俺はこのゲームを続けていたい。

バイオレットとの恋愛、この刺激的なゲームは、俺にとって、言い方を変えれば最高のエンターテイメントで、俺たちはこの一連のショーの主役。常に舞台の上に立ち、演じ続けるプレイヤーだ。

恋愛はゲームか？

確かに、恋愛には、極めてゲーム的な要素が絡んでいる。
恋愛をゲームだと捉えることで、それまでとは違う、一歩先を行く新しい境地に辿り着けることを俺は知っている。
大まかなルールや必勝法はマスターしているが、奥が深いこのゲームでは、常に不確実性と大変なリスクがつきまとう。

俺は常に当事者でいたい。
ゲームの進行を見守るオーディエンスではなく、全世界を舞台に、ゲームの主役を演じ続けるプレイヤーでいたい。これからもずっとそうありたいと願っている。

物心ついたときから、意識的にも、あるいは無意識的、本能的にも、俺たちはこのゲームのプレイヤーになっている。

恋愛には、運や確率が絡み、駆け引きがあり、定跡やパターン、必勝法が存在し、プレイヤーとオーディエンスがいる。
勝つ者がいて、負ける者もいる。
恋の炎とは、あるときは絶対に消えることがない、消すことが許されない聖火のようだが、それを燃え上がらせるか、消してしまうかは二人の力量に依存している。

それは人生を、あるときは自分の生涯すべてを舞台にした、あまりにも壮大なドラマが展開されるゲームだ。

多くの人達との出逢いの中で、誰かを好きになり、お互いに惹かれあい、恋をして、愛し合う。
この恋愛という名の一連のプロセス以上に、心をときめかせるゲームが他にあるだろうか？

少なくとも俺は、人生の中で、恋愛以上に素晴らしいゲームを見出せない。