3月18日。水曜日。

今日中に、俺はキメるつもりでいた。

今宵はマリアの、記念すべきロスト・ヴァージンが訪れる夜だ。

マリアと一緒に食事に行く約束をしていた俺は、待ち合わせの時間、19:00時ピッタリに、彼女が住むマンションまで出向いた。

俺は、普段よく行くイタリアン・レストランに彼女を連れて行くつもりだった。
しかし、マリアは俺の車に乗り込んだ直後、「行きたいお店はもう決めてあるの」と言った。

控えめで、保守的な彼女らしくない、積極的な発言に聞こえた。

彼女は「お寿司が食べたいの」と言った。彼女が提案したのは近所にある回転寿司の店だった。

回転寿司。ハッキリ言って、俺にとっては有り得ない選択肢だった。

「たぶん、もっと美味しい店があるよ。鮨が食べたいなら俺が知ってる店に連れて行くけど?」と提案した。

しかし、彼女は俺の提案に応じること無く、あくまでも自分が薦める回転寿司の店に行きたいようだった。

意外。

こんなに我の強い女性だったとは。

俺は自分の主張を強く押し通せる自尊心の高い女性が大好きだ。

しかしなぜ、そこまで回転寿司に執着したのだろう?

「この前、焼き肉ご馳走してもらったから、今日は私が奢るね」と彼女が言った。

なるほど。そういうことか。
それで単価の安い回転寿司にしたいワケだな?

回転寿司を食べに行くのは不本意だったが、彼女の意を汲み、「今日は私が奢るね」と言う彼女の言葉に、喜んで従うことにした。

ちなみに、実際には、彼女がトイレに立った隙に俺が支払いを済ませ、戻ってきた彼女に「今日は俺が払うから次の機会にご馳走してよ」と言った。

しかしここでもまた、マリアは全く折れる様子がなく、「私が払う」と言って引き下がらず、結局は「じゃぁ割り勘で」ということで落ち着いた。

食事を終えた後、「もう少し一緒にいたくないか?」という俺の言葉に、彼女は恥ずかしそうに、首を縦に振った。

「これは余裕でイケるな」と判断した俺は、「今からオマエを連れ込むから」と宣言した。

マリアは「なに? なに? 何処に行くのぉ?」と挙動不審になった。

俺が向かった先は、もちろん、ラヴホテル。

その事実を知ると、
「ホテルなんて行ったこと無い!」
「こんなの初めてだよ!」
そして、
「ちょっと待って! ちょっと待って! やっぱり私、無理かも!」と。
さらに、
「なんだか悪いことしてるみたいなの。こういうことって、イケナイことだと思うの!」とギャーギャーわめいた。

本当に、面倒くさい女性だと思った。

彼女は、「私たち、セックスしちゃうのぉ?」と言った。

…なかなか面白い台詞だ。笑いが止まらなかった。

俺は答えた。
「するよ。早ければ今夜中に」

そうこうしているうちに、ホテルの前に辿り着いた。
正確に言うと、駐車場まで入った。

しかし、この期に及んでも未だ、彼女は覚悟を決めかねている様子だった。

マリアは、俺の車から降りることを拒んだ。

そして、「私ね、結婚する男の人としか、そういうことしたくないの」と言った。

だいぶ計算が狂った。ハッキリ言って、こんなに苦戦を強いられるとは思っていなかった。

あとほんの少しだけ強引に迫り、もう一押しだけすれば、彼女を車から降ろし、ホテルの中に連れて行くことが可能だとわかっていた。しかし俺の直感は「今夜は止めたほうが良さそうじゃないか?」と訴えていた。

ちなみにもちろん、下半身は「Go サイン」を出していた。(四六時中、いつでもだけど)

「OK、わかった。今日はもう帰ろう。時間も遅いし、眠いしな」
(ホテルのベッドで眠るのが最善の選択肢なんだけど)

マリアは、清純派で、正真正銘のお嬢様。ルックスも申し分なく、スタイルも完璧。才色兼備で、精神的にも経済的にも自立した素晴らしい女性だ。

そんな彼女がなぜ、未だ男性経験がまったく無いのか?

過去、多くの男性が彼女とベッドを共にしようと試みてきたはずだ。
しかし、どんな男性に声をかけられても、口説かれても、貞節を重んじる強靭な意思で、それらの誘惑を拒み続けてきた。

そして多くの男性は、「結婚」や「貞節」を重んじる彼女の強い意志に尻込みし、一歩を踏み出せずに躊躇してきたのだろう。

しかし俺は彼らとは違う。俺はマリアとのセックスを諦めたくなかった。

今夜が無理でも、まだチャンスはある。

どんな言葉を使おうか、ちょっと考えてから、俺は彼女に言った。

「明後日、また食事に行こうぜ。今度は俺が行きたい店に行く。ホントは今日連れて行きたかったお店、OKだよな?」

彼女は戸惑いの表情を浮かべたが、「いいよ」と恥ずかしそうに首を縦に振り、うなずいた。
俺との肉体関係については覚悟を決めかねているが、それでもデートの誘いには応じる姿勢がある。

マリアにとっては早すぎる展開だった。なにしろ、俺たちはまだ、はじめて出逢ってから5日しか経っていないのだから。

しかし、もう既にいくつもの伏線を引いてきた。

明後日、3月20日こそが、俺とマリアの運命の夜になるだろう。

俺は「じゃ、次こそはオマエを押し倒すから」と言った。

マリアは微笑みを浮かべ、「夏紀はどこまでが本気かわからない。怖いくらいに大胆なこと言うのに、行動は控えめだし、すっごく優しいし、紳士的なんだもん」と言った。

「お嬢さん、それが俺の、女性を口説き堕とす秘訣なんだよ」

つづく。。。(次回、完結)