横峯さくらとの交際は、概ね順調だった。
彼女と逢うのは週に2回から3回程度。
大抵は夜、仕事が終わった後に、俺が彼女の部屋へ向かい、一緒に食事を作って食べ、そのまま翌朝まで過ごす、というのがいつものパターンだった。
カラダの相性も良く、2人の関係も良好だったので、そのうち横峯さくらは「彼女になりたい」というような台詞も言わなくなり、細かいことは気にしなくなっていたようだった。
2人の関係が著しく悪化し始めたのは、10月22日、金曜日のことだった。
後に『ドタキャン逆ギレ事件』と呼ぶことになる出来事が起こった。
この日はいつものように横峯さくらと逢う約束をしていて、俺の仕事が終わった後に彼女の部屋へ向かう予定だった。
しかし、仕事後、携帯のメールチェックをすると、横峯さくらからドタキャンのメールが入っていた。
残念だが、キャンセルされてしまってはどうすることもできない。
俺は彼女と逢うことをあきらめた。
もともと彼女の家で食事する手筈だったのに、その予定が無くなってしまったため、俺は仕事帰りにスーパーに寄って食材を買い、そのまま家に帰ろうと思った。
事件はそのスーパーで起きた。
俺が買い物を済ませ、店を出ようとしたその時、偶然、横峯さくらがその場に現れた。
「俺との約束をキャンセルして、なぜこんなところに買い物に来ているんだろう?」という疑問が俺の脳裏に浮かぶよりも早く、彼女は「こんなところで何してるのよ!」と不機嫌な態度で俺に近づいてきた。
本来ならば、横峯さくらは真っ先にドタキャンしたことを詫び、俺に謝るべきだ。
しかしそのタイミングで、完全な逆ギレである。
俺は、唖然とした。
「酷い女だ」と思った。
公共の場でヒステリックに振る舞う彼女はあまりにも不愉快で、彼女の言動に幻滅した。
そして、それと同時にすべてを悟った。
「なぜ横峯さくらは俺との約束をドタキャンしたのか?」
その理由を理解した。
今日、彼女に生理が来たのだ。
ドタキャンも、逆ギレも、典型的なPMSの影響だったのだ。
続く。