ついさっきのこと。
久しぶりにアユミ嬢から電話がかかってきた。
いちおう、正確な時刻を記しておく。…5月5日、23時07分だ。
話の内容は、例に漏れず、彼女の恋愛相談。…なのだけれど、今回の一件は、これまでとは違ってちょっと特殊だった。アユミの口調が、かなり混乱していた。
アユミの話を要約すると、以下のような感じ。
- 3月末に開催された合コンで、アユミは「いい人」に出逢った。
- 彼は29歳。格闘技系のスポーツが趣味の、ごくフツーのサラリーマン。
- はじめは、友人の女の子のアドヴァイスに従って彼に迫ろうと試みたが、どうやらその友人のアドヴァイスは全く役に立たないぞ、と途中で気づき、作戦変更。
アユミはいつもどおり『夏紀メソッド』を使うことにした。(俺が考案したから『夏紀メソッド』という。たった今そう名付けた。) - 3〜4回のデートを経て、結果的に二人はかなり「いい感じの仲」になりつつあり、とうとう『Xデー』が訪れる。
4月25日が、二人にとっての運命の夜になる。 - その夜、彼女たちが利用したのは、奇しくも、俺とヒトミさんが再会したときに利用した店と同じだった。…真似するなよ。アユちん!
結局、アユミとその彼は、21:00時頃から閉店時刻の27:00時まで、5時間以上もその店で語り合った。
その後、酔った二人が向かった場所は、大方の予想通り、ラヴホテル。
4月25日、深夜未明、というかもう、ほとんど4月26日の早朝。アユミと彼は一線を越えた。 - アユミ曰く、「男はいつでも狼さん♪ 女はいつでも小悪魔ちゃん♪」
- それからさらに一週間後、5月2日、土曜日。つまり三日前のこと。
アユミは、合コンを開催したときのメンバーを含む総勢15名のメンバーでのバーベキュー・パーティーに参加した。
当然、そこには例の彼の姿もある。しかしアユミと彼との接触回数も会話の頻度も少なく、なんとなくヨソヨソしい彼の態度を見て、彼女は気づく。「結局酔った勢いかい」と。
アユミとしては、彼をテイスティングしたつもりだったのだけど、アユミも彼にテイスティングさたんだよね。つまりは。
俺が「彼とはどういう関係になりたいの?」と訊いても、彼女の返事は曖昧だったり、全く辻褄が合わないことを語りだしたりで、俺としても手の施しようが無い始末。
まぁ、こんな状況のときの女性は、ただ黙って話を聴いてあげてるのが最善の対処策、なんだけど、アユミの混乱っぷりったらもう、尋常じゃなかった。
あまりにも感情が昂りすぎたのか、受話器の向こうの彼女はいきなり泣き出したり、頭の中に浮かんだ言葉を必死に口にして、猛烈な勢いで喋りかけてくる。
俺が「アユちん、もしかして泣いてるの?」と訊いても、彼女は俺のその言葉を否定したけど。
そしてさらに。
ここ数週間の間に、並行して、『足首の捻挫』、『胃腸炎』、『指の骨折』と、肉体的な不運がアユミの身に襲いかかっていた。
はぁ〜。もう。
溜息が出ちゃうよねぇ。
だいぶ負のオーラに取り憑かれてるよな。アユちん、そろそろ挽回しよーぜ。
それとももしかして、アユちん、今日は生理だったか?
…いずれにしても、、、今宵、アユミは俺に何を伝えたかったのだろう?
何を期待して俺に電話をかけたのだろう?
彼女は何を求めていたのだろう?
約二時間近くも彼女と長電話をしていたが、最近のアユミの近況以外、最後まで何もわからないまま、俺たちは携帯電話の電源を切った。