当時のマリアはあまりにも厳格で、柔軟性に欠けていた。

さらに、男性との交際経験が無いマリアは、男と女の「相性」に疎かった。
そのため彼女は、俺たちの相性が「良い」と思い込んでいたようだ。…精神的にも。肉体的にも。
それとは逆に、俺はマリアが嫌悪するほどの語り尽くせない数々の恋愛経験を経て、自分と相性が良い女性の性格や性向を熟知している。

そう。マリアと俺との「相性の良さ」は、俺の演出によるものだった。
残念なことに、彼女はそれに気付いていない。

マリアが求めていたのは、その延長線上に「結婚」がある恋愛関係。

一方、俺はこうして週に数回だけ短期的に逢い、身体を重ねるだけの関係で満足していた。
俺にとって、マリアはセックス・フレンドの一人であり、生徒である。マリアに対する俺の使命は、彼女が、彼女に相応しい一流の男を捕まえることができるように教育することだ。俺はそれ以上の関係を求めていなかった。
長期的で深い結びつきのある関係を求めているのは俺も同じだが、その選択肢として、マリアとの結婚は視野に無い。

俺は自覚している。
マリアに相応しい男性は俺じゃない。
彼女が生涯を共にする男性は俺じゃない。

しかし、そんな意思とは裏腹に、マリアに惹かれつつある自分の気持ちにも気付いていた。
マリアは非の打ち所がない。
素直で正直で、貞操観念が強く、家庭的で、生涯の伴侶として選ぶにしても申し分の無い素敵な女性だ。
一人の女としての彼女の魅力は、俺を虜にするのに充分だった。
俺はマリアに深入りしつつあったのだ。

でも、それでも…。
俺たちはあまりにも違いすぎた。

俺たちは、お互いに、かなり無理をして双方の要求に合わせていた。
いや、実際は、無理をしていたのは彼女だけで、俺は相変わらず自分の思想を貫き、我が道を歩んでいた。

短期的には彼女を言いくるめることでコミュニケーションを深め、誤摩化すことに成功しているが、長期的には、必ず彼女も2人の間にある溝の大きさに気づくことになるだろう。

いや、もしかしたら彼女は既にその隔たりを認めていたのかもしれない。
俺と出逢った当初から2人の「違い」を理解していたのかもしれない。

マリアは、俺の指導のもと、大抵の女性が10年以上の歳月をかけて経験し、学んでいく知識や知恵を、約二ヶ月間という短期間で学習していった。

彼女に伝えるべきことが何も無くなってくると、俺は、2人の別れが近づいていることを意識しはじめた。
俺たちの関係はいつか必ず終わる、終わらせる。
そして「別れの言葉」は、俺が言うことになるだろうと予想していた。

しかし。

俺たちの関係に終止符を打ったのは、マリアだった。

2009年6月28日。俺たちは別れた。
2人の交際期間は約3ヶ月間。
そのわずかな時期の間で、聖処女マリアは過去の自分を脱ぎ捨てた。

つづく。