マリアに対する『短期集中恋愛講座』において、俺が彼女に施したものは、大きく2つのカテゴリーに分けられる。

初めの1つは、男性について。
残りの1つは、女性について。

これまでも説明してきたように、はじめに俺は、主に「400 対 2,000,000,000,000」の話題や「性欲のレンズ」の話題、「男性の浮気」に関する話題などを持ち出し、男性の本質を理解させた。
他のすべての女性の例に漏れず、当初は俺の話を眉唾で聞いていたマリアだったが、あらゆる事実を突きつけることで、彼女は俺の言葉に従うようになった。

…ここまで、約一ヶ月ほどの時間を要した。

次に俺は、女性についての講義をはじめた。
恋愛で成功するために、どのような女性になるべきか?
理想的な男性と出逢うために。
彼の気を惹くために。
彼を虜にするために。
そして長期間に渡って一人の男性を繋ぎ止めておくために。

さて。この件についても、マリアは当初、俺が示す女性像を、単に俺自信の個人的な女性の好みだと解釈していたらしい。
間違ってはいないが、俺の好みの女性像と、多くの男性たちに好かれる理想の女性像は完全にイコールではない。

ちなみに俺は、マリアの外見については一切口出ししていない。

彼女のルックスは申し分なく、「清楚」や「上品」と言った形容詞がよく似合う美人だ。
さらに、香水が好きなようで、『Chloé』、『Christian Dior』、『Gucci』などの香りを身に纏っていた。しかも、それらの香りは彼女の気品に満ちた雰囲気と完璧にリンクしていて、その魅力をより一層洗練させていた。
服装の趣味は地味で、俺の好みではなかったが、どういうわけか、下着のセンスは完璧だった。
というよりも、下着姿が抜群にセクシーだった。

そう。彼女の問題は、外見ではなく、内面にある。
26歳の処女は、ガチガチに凝り固まった迷信や妄想に取り憑かれ、現実や事実を知らずに生きてきたのだ。
そして、男性に対して偏見を抱いていたのと同じように、自分自身に対しても、誤った自己評価を下していたようだ。
マリアは、自分が生まれながらに持つ、女としての天性の魅力にまったく気がついていなかった。
彼女は自分自信を、色気のない、地味で内気な女性だと思い込んでいたのだ。

俺たち人間は、自己のセルフイメージ通りの行動をする生き物だ。
だから彼女はこれまでの26年間、男性に対しても消極的で、恋愛感情に任せて流れに身を投じるリスクを避け続けてきた。
これまで彼女の周囲にいた男性たちも、そんなマリアの本当の魅力を見抜く慧眼を持ち合わせていなかったのだろう。

しかし俺は違う。

ミュージカル『Man of La Mancha』(ラ・マンチャの男)の中で、騎士ドン・キホーテは、売春婦アルドンサの中に、高貴なドルシネア姫の姿を見出す。
薄汚い娼婦だったアルドンサは麗しいドルシネアとしての自分を否定するが、死の床に着いたドン・キホーテのもとで、アルドンサは彼が示してくれた新しい自分のセルフイメージを受け入れ、ドルシネアと生きる…。

劇作家ミゲル・デ・セルバンテスが世に送り出したのは『見果てぬ夢』だったが、俺は、この夢を現実にしたいと思った。

俺はマリアに、新しいセルフイメージを与えた。
多くの男性たちを惹き付ける、美しくて聡明な、魅力的な女性のイメージを。
俺は、ドン・キホーテのように、マリアの中に、もう一人の『ドルシネア』としての人格を見出したのだ。

そして、最も幸運なことに、マリアは、俺が示した理想の女性像を受け入れようとしていた。
彼女自身が、自らの中に潜む新しいセルフイメージ、『ドルシネア』を解放しようとしていた。

つづく。