※この記事、「シンデレラとサラブレッド Episode.5」は、ヒトミさん本人の承諾が得られなかったため、今まで公開することができず、本来ならばお蔵入りとなってしまうはずだった。

しかしこのまま日の目を見ずに削除してしまうのも忍びないので、「ヤヴァイ」と思われる文章の一部を訂正・削除し、再び掲載に踏み切った次第だ。

さて。現在、またしても、ヒトミさんとは音信不通の状態にある。
彼女はこの記事を読んでくれているだろうか?

とりあえず、ヒトミさん、連絡ください。


ヒトミさんは、俺の頬に唇が触れそうなほど顔を近づけると、俺の耳元で、小さな声で囁いた。

「私、不倫してるの」

暴走し続けていた俺の妄想にピリオドが打たれた。
あらゆるケースの告白を連想していたため、ある意味、彼女の言葉は想像していたとおり。その台詞を聞いて驚くことはなかった。
むしろ、「不倫程度のことでよかった」と胸を撫で下ろしたくらいだ。

しかし、彼女の言葉は重い。

不倫。

その言葉を口にしてから直後、彼女の表情は深刻さを増し、態度は明らかに落ち着き無く豹変していった。
精神的に追いつめられ、かなり切羽詰まった様子だった。

彼女は禁断の恋に陥り、そこから抜け出す術を模索しているのだろうか?
俺は彼女の瞳を見つめたまま、何も言わずに彼女の告白に耳を傾け続けた。

「私らしくないよね?」と彼女が言った。

どうだろう?
確かに、これほど動揺しているヒトミさんを見るのははじめてだ。

続けて彼女は「バイオレットさんの記事、読んだよ」と言った。

俺は、すべてを理解した。

世間体的にタブーとされる「不倫」に関する問題ゆえ、彼女は他の誰にもこの悩み相談することができなかった。あるとき偶然にこのサイトの存在を知り、俺が書いた記事【恋愛はゲーム?】を読んだ。

男と女、立場が違うとはいえ、同じく不倫経験がある俺なら相談役に最適だと、ヒトミさんは元彼である俺に白羽の矢を立てたワケだ。

そして、あの日、2008年8月31日。ヒトミさんは俺に一通のメールを送った。
それがすべての発端になり、今日、こうして二人きりで逢うことが実現したのだ。

ヒトミさんにとって、俺は同志で、同じ悩みを共有できる貴重な存在だと感じたのだろう。

事実。彼女の悩みは深刻だ。

「穴にハマったら、それ以上掘るな!」
これは俺がよく言う人生の格言だが、彼女は穴から抜け出すことも、掘るのを止めることもできない状態だった。
彼女は強がっていたが、胸の内に溜めていた想いを吐き出すたびに、彼女の表情は歪み、瞳には涙が溢れてくる。同時に、俺の胸も締め付けられる。彼女の心に突き刺さっている「痛み」を、俺も感じることができたからだ。

「泣いていいよ」と俺は言った。

その言葉を聞き、途端にヒトミさんの瞳から涙が溢れ出す。
そして彼女は俺の胸で泣き崩れた。

ガラスの靴はどこだ?

シンデレラ。そろそろ魔法が切れる時間だよ。

つづく…。